こんにちは。今回は交通事故のデータを活用して、コロナ禍での緊急事態宣言が交通事故に与えた影響を因果推論の1つの手法である差分の差分法(DID)を用いて検証してみました。
はじめに
私は統計の専門家ではありません。統計を勉強する中で学んだ理論を使ってアウトプットをする場として記載しています。お気づきのことがあれば教えていただけますと幸いです。
利用するデータ
これまで同様、警察庁が出しているオープンデータを活用しました。
緊急事態宣言が出る前の2019年のデータ、発令後の2020年、2021年の3年分のデータを使いました。
警察庁Webサイトで公開されているオープンデータ(2021年)
差分の差分法とは
差分の差分法(Difference-in-Differences)は、とてもシンプルなアイデアに基づいています。
まず、差分の差分法では、2つのグループを比べることで効果を推測します。例えば、交通事故の件数を減らすために緊急事態宣言が出された場合を考えます。その際、以下の2つのグループを比べます。
- 介入グループ(宣言された地域):緊急事態宣言が出された地域の交通事故の件数を調べます。
- 非介入グループ(宣言されていない地域):緊急事態宣言が出されていない地域の交通事故の件数を調べます。
では、具体的な手順を見ていきます。
- まず、宣言された地域とされていない地域を選びます。例えば、宣言された都道府県とされていない都道府県を比べます。
- 宣言される前の期間と宣言された後の期間を決めます。例えば、宣言される前の1年間と宣言された後の1年間を比べます。
- 宣言前と宣言後の交通事故の件数を調べます。宣言前の両グループの交通事故の件数の平均を計算し、宣言後の両グループの交通事故の件数の平均を計算します。
- そして、差分の差を計算します。つまり、宣言後の平均から宣言前の平均を引きます。これにより、緊急事態宣言の効果を推定します。
- 最後に、統計的な検定を行います。これは、宣言後の交通事故の件数の差が偶然ではなく、本当に宣言の影響によるものかどうかを確かめるためのものです。
以上が差分の差分法の基本的な手順です。この手法を使うと、緊急事態宣言が交通事故にどのような影響を与えたのかを推測することができます。
まずは推移をプロットしてみる
緊急事態宣言が1番最初に出された期間は2020/4/7 – 2020/5/25でした。その際に対象となったエリアが下記です。
- 北海道、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県
上記の対象エリアを赤線で、それ以外のエリアを青線でプロットした図が下記です。
- 負傷者数の合計
- 免許保有者1人当たりの負傷率
をプロットしてみました。
いずれも、2019年に比べて2020年、2021年の方が少なくなっていることがわかります。
差分の差分法では、緊急事態宣言という出来事が発生したエリアと、その他エリアを比較した際に、トレンド以外の変化(この場合はその他のエリアでの差分以上の変化)があったのかどうかを確認する手法となります。
結果
結果は下記のようになりました。2019年と2020年、2019年と2021年をそれぞれ負傷者数、死者数の推定効果と統計的検定の結果を載せています。
2019 – 2020 の負傷者数以外はマイナスの効果となっておりました。
どの比較でもp値が低い値となっているため、かなり少ない数字ですが、
緊急事態宣言による効果は
- 2019年と2020年の負傷者:+0.00014名
- 2019年と2020年の死者数:-0.00016名
- 2019年と2021年の負傷者:-0.0050名
- 2019年と2021年の死者数:-0.0007名
という結果になりました。
2021年には何度か緊急事態宣言が発令されたり、他のエリアでも地域独自で対策を行っていたりとしていたため、あまりこの因果推定では結果は見えづらくなってしまったのかなと考えています。
差分の差分法 | 年間差分の差分法による因果効果 | 統計的検定結果 |
---|---|---|
負傷者数 | ||
2019 – 2020 | 0.00014142877863165815 | t値: 12.504904589207461, p値: 7.164792815903005e-36 |
2019 – 2021 | -0.005068793868091337 | t値: 10.282300153054484, p値: 8.549735905722516e-25 |
死者数 | ||
2019 – 2020 | -0.0001639315466556079 | t値: 12.92425640446271, p値: 3.362787431412798e-38 |
2019 – 2021 | -0.0007094333249397069 | t値: 11.751284781152359, p値: 7.069437830446185e-32 |
まとめ
今回は因果推論の1つの手法である、差分の差分法を用いて、緊急事態宣言の発令が与えた、交通事故(の負傷者数、死者数)への影響を推定してみました。
結果は信頼できるP値となりましたが、効果のインパクトはかなり低いものとなりました。日本では緊急事態宣言が発令されていない地方でのエリアの方が自粛がされていたりと、あまり発令エリアとその他のエリアでの差分がなかったのかもしれません。
機会があれば日本以外での国でも傾向があったのかなど調べてみたいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。